だが、八田の苦労を知る熊は、むしろその事を喜んだ。

八田は高校の在学中に両親を亡くし、それからずっと
弟を育て、店を切り盛りしていたのだ。

しばらくはどうしようもない豆腐しか作れなかったと言う。
見様見真似で作れるほど簡単なものでは無い。
それでも八田は諦めなかった。
毎朝早く起き、豆腐を作る。
夜は働きに行く。
弟を大学に行かせる為だ。

その努力の甲斐あって、満足の行く豆腐が出来るまでに
それほどの時間はかからなかった。

その時のことを今でも熊は、ありありと思い出すことができる。
八田は、まるで運動会の競争のように、鍋を胸の前に抱き、
つくね亭まで走ってきたのだ。
丁度、朝の仕入れから戻ってきた熊が足音に
気がつき、振り向くと目の前に八田の顔が有った。四へ