「少し、お酒を控えられたらどうですか」

玲子は、哲也を見もしないで言った。
もう何度も口にした言葉だ。
無論、夫がそれぐらいで酒を絶つわけが無い事は判っている。
判ってはいるが、言わずにはいられない。

このところの夫の奇妙な行動には我慢できなかった。
なかば泣き落としで連れて行った病院の診断によると、レム睡眠行動障害の疑いが有るらしい。
医師は、それをRBDと略して言った。
聞こえは良いが、要するに安全装置が外れた状態なのだ。

正常な状態ならば、人は幾ら激しい行動内容を伴う夢を見ても、実際に体が動く事は無い。
ところが、RBDの患者は『意識の安全装置』が外れている為、夢に操られてしまう。

軽度であれば、譫言や腕を振り回す程度だが、重症患者は、部屋を歩き回ったり、タンスを引き倒したりする。

その衝撃で目覚めることもある。

特に、飲酒を好む男性に顕著に見られる症状であった。

哲也のRBDも、深酒が過ぎると必ず起こった。
当初は譫言程度であったのだが、ここ最近、その激しさを増して来た。

玲子は、満足に眠れなくなった。

二へ