ニコの毛並みが明るいバラ色に変わった。
長い耳がピン、と立つ。
何よりもこの家族の笑顔が好きなのだ。
ニコは、もちろん普通の餌も食べるが、それだけでは永くは生きられない。
この不思議な生物は、人が喜ぶ波動を栄養にして生きるのである。
したがって、笑いの絶えることの無い家庭しか飼うことが出来ない。
ニコの毛色が緩やかな薄茶色に変わっていく。
ようやく安心したのだろう。
その体を撫でながら、テリシアはもう一度母に言った。

「わたしも母さんと同じ。美味しい物をたくさん作ります」

マリアはにこやかに微笑んだ。
「わかりました。母さんも嬉しいわ。さ、もう寝なさい。明日も
早いのでしょう?」

「はい、かあさま」
部屋に向かうテリシアの後をニコがついて歩く。
突然、テリシアが立ち止まったので、ニコがみぃ、と抗議の声をあげた。

「かあさま」

「どうしました?」

テリシアは、ほんの少しだけ迷いをみせたが、思い切ったように
母を見つめた。
「とうさまは…どこにいらっしゃるのですか。どんな人なのですか」

怒られるかな、と不安な様子が見てとれる。
マリアは柔らかな微笑みを浮かべ、テリシアに言った。

「教えてあげましょう、父さんと母さんのことを。
でも明日。今日はもう、遅いわ」

それはテリシアにとって何よりの褒美である。
だがテリシアは、笑顔になるのを我慢した。
小難しい顔つきのまま、ニコをそっと抱き上げて肩に乗せる。
「はい、かあさま。ニコ、一緒に寝ようね」

精一杯、嬉しさを隠して寝室に向かうテリシアだったが、
マリアにはテリシアがどれほど喜んでいるか、良く判っていた。
ニコの毛の色が明るいバラ色に変わっていたからだ。

(いまのうちに話しておかなければ…まだ、この世が穏やかなうちに)
マリアの美しい顔がいつの間にか険しく引き締まっていた。


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