マリアは喜びを押し隠したような顔つきだ。
「もっと華やかな魔法もありますよ?治癒の魔法を高めれば、
医師にもなれます。創造の魔法を極めれば、想う通りの物を
作り出すことができます。母さんはあまり好きではありませんが、
闘いの魔法を習得すれば、大きな怪物ですら倒せるでしょう」

「それでもわたしは、食の魔法がいいです。美味しいものを
食べた人は、みんな幸せになるから」

その言葉を聞いた母は黙り込み、突然、はらはらと涙を落とした。
テリシアが母の涙を見たのは、その時が二度目だった。
一度目は、父トマムが旅立つ時である。
そのときの記憶は曖昧であったが、テリシアの額に母の涙が
落ちてきた感触は夢で見るほどであった。
母が泣いている。
どうしたのだろう、とテリシアは不安になった。
「かあさま。どうされたのですか?わたし、何かいけないこと言いましたか」

ニコが目覚めている。毛色が水色に変わっている。
ニコの毛色は、身近の者の感情に左右されるのだ。
今、ニコは不安な気持ちを押さえられずにいた。
その為、耳の先から尻尾まで水色に変わってしまったのだ。

マリアが慌てて涙を拭った。
「ああ、違うのよ。母さんは嬉しくて、驚いて、涙を流したの。
あのね、テリシア。あなたが今言ったこと、父さんも言ったの。」

「え?今言ったこと?」

「そう。美味しいものを食べた人は、みんな幸せになる。
父さんが、母さんの料理を初めて食べた時に言った言葉よ」


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