「できるさ。その為には、お母さんとお父さんの言うことを良く聞いて、何でも好き嫌いなく食べるんだ」

うん、判ったと一斉に答える子鳩達をにこやかに見渡した。
子鳩達を見送り、朝の巡回を始めたジャックを呼び止める鳩が居る。

「ジャックさん」

「お、ケンか」

「奴がまた来ました」

「なにっ」
ジャックが急いで戻ると、そこにケンが言うところの『奴』がノッソリと立っていた。

「おいおい、しつこい熊だな」

昨日、悲鳴をあげ逃げ帰った大男である。

「まだやろうってか」

近づいて行くジャックに気づいたのか、大男がゆっくりと体を向けた。

「来たか、ジャック…俺の名前は乱蔵。覚えておいてくれ」

「おや、いつの間にか俺の名前も知ってるとはな、なかなかどうして勉強熱心な人間も居たもんだ」

また、あの息詰まるチキンレースか。
正直、手強い相手なのだ。
知らず知らず、それまで穏やかだったジャックの顔に狂気めいた影がちらつき始めた。

ふと、ジャックの脚が止まる。
男の顔から、悲壮感が漂っているのだ。

「あんた。死ぬ気か」

「すまんな、バカな人間に付き合ってくれよ」
そう言うと、男はチラリと背後を振り向いた。