「なんだよそりゃ」
隆之が恐怖を露わにその生物を見つめている。
あまりにも思いがけないものである為、体が動こうとしない。
それは、陽一が大事にしている兎であった。
美穂は、血がほとばしる脛を見つめながら失神した。
その間も兎は美穂を食べ続けようとしている。
隆之は手元にあった雑誌を丸め、何度も兎を叩き、
ようやく引き離した。

「しっかりしろ、今救急車を呼んでやるから」
震える指先で携帯を操る。

「くそっ、なんだよ誰も出ないじゃないか」
何度かけても、呼び出し音が虚しく響くばかりである。

「消防署に誰もいないってのはどういうことだよ!
仕方ない、車出すからな」

美穂と自分に言い聞かせ、隆之はガレージに向かった。
町の様子がおかしい。
あちこちから悲鳴や怒号が聞こえてくる。

「兎が人を食ってたまるかって。うわっ!な、なんだよこれ」
エントリーキーのボタンを押そうとした隆之の指先に
雨蛙が飛び乗ってきたのだ。
指先だけではない。
足、太股、腰、背中、腕。ありとあらゆる箇所に雨蛙がしがみ付いてきた。
数百とも思われる雨蛙が隆之の体を覆う。
そして一斉に齧り始めた。
激烈な痛みが隆之を襲う。
大きなサイレンが鳴っているな…
隆之はそれしか考えられないまま、意識を失った。
サイレンでは無く、己の悲鳴だということには結局気づかなかった。