(どういうつもりだ…おそらく、俺の足関節を恐れているに違いない)

が、桜葉は関節技の匠である。
相手を掴むことさえ出来たら、どのような状態からでも極める。

前回の二の足は踏まない。
いつもより倍以上のボディーチェックを受けている。

今度は逃がさない。

スルスルと桜葉が前に出た。

が、春川のスピードは桜葉のイメージを遥かに凌駕した。

リングシューズが効いている。
踏み込みにも蹴りだしにもロスが無い。
普通の左ジャブが、ストレート並みの破壊力で桜葉の顔面を襲う。

ダッキング、スリッピング、いずれの防御も春川の打撃を防ぐ決め手にはならない。

たちまち、桜葉の顔面は血まみれになった。
鼻骨が折れたのか、鼻からの出血が酷い。

このままではレフリーストップを食らう。
桜葉の呑気な顔に焦りが浮かんだ。

試合中の鼻血は致命的だ。
呼吸がままならない。
そうすると、体が酸素を欲しがって悲鳴をあげるのだ。

長引けば長引くほど、圧倒的に不利になる。

桜葉は勝負に出た。

顔面のガードを下げ、春川のラッシュを誘う。

思い通りだ。

春川は暈に掛かって突進してきた。
倒れ込むようにして上体を下げた時には、桜葉は春川の太股をがっちりと掴んでいた。

今度は滑らない。

春川のアキレス腱が脇の下で悲鳴を上げ始めた。