デビュー寸前でボーカルが抜けた。
目標を失い、俺のバンドは解散。
俺はバイト先の上司に誘われ、本拠地を大阪から京都に移した。
もう一度やり直してみようとする時、大阪の人間は何故だか京都に逃げるらしい。
俺もその一人だった。

そこで俺は一人の女性に出会った。

俺が働いていた楽器売り場は地下。
彼女がいるのは地上のスポーツ用品売り場。
毎日、弁当を買いに行くたび、笑顔が嫌でも目に入る。
すごく気になる。
いつも、ものすごく元気なのだ。
けれどもあっちはスキーウェアとかテニスウェアなど小洒落たスポーツ用品、こっちは地下。
口をきく切欠が無い。


その日も俺は、だらだらと昼飯を買いに地上へ上がった。

「あ、あの!このウェア、サイズあうと思うんですけど!」

いきなり声をかけられた。
見ると、彼女は在庫を一層する為に、店頭でワゴンセールをやっている。
手にしているのは、ヤマハのジャージだ。

サイズ2L。
たやすく売れるとも思えない。

「いいっすよ」

初めての会話はこうして始まった。

それから、俺と彼女は急速に仲良くなった。

たまたま俺が店先でかけていたコンサートのビデオが彼女の大のお気に入りだったり、(ちなみにデヴィット・ボゥィーのグラススパイダーツアー)
当時、彼女が付き合っていた彼氏と俺が同郷だったり。

そんなある日、俺は彼女から一人の作家を教えてもらった。

夢枕漠。
闇刈り師シリーズ、キマイラシリーズ、俺は見事にハマった。
登場人物に九十九乱蔵という男がいる。
つくもらんぞう、と読む。

彼女は俺を見た瞬間、あ、九十九乱蔵だと思ったらしい。

そう、これがつくね乱蔵の由縁だ。


様々な紆余曲折を経て、俺と彼女は付き合い始めた。

そして或る日、俺は決めた。
バイトから足を洗う。
きちんとした社員になって、彼女と家庭を築く。

まだ胸の中で、ミュージシャンへの夢はくすぶっていた。

けれども、人を愛し、守り、共に歩くことで叶う夢もある。

『暖かい家庭』。
その夢を叶える為に、俺は懸命に採用試験に臨んだ。

採用。

そしてプロポーズ。
(なんと言ったかは秘密。笑)


あげまん、という言葉がある。

男の運勢を上げる女性のことを指す言葉だ。

うちの嫁はんは、とんでもないあげまんだ。

上がりすぎて高所恐怖症になるぐらいだ。

結婚記念日おめでとう。
あの日、声をかけてくれた君にありがとう。