俺に出来るのはここまでだ。
あの少年がこの先どうなるかは俺の知ったことではない。
だが、おそらく手術は成功するだろうと
思わせるほどの元気な笑顔を少年は見せていた。

さて、マスターのところへ戻るか。
そっと病室を抜け出した俺を玲子が呼び止めた。

「…ありがとう。迷惑かけちゃったね」

「なに、たいしたことじゃない。仕事柄、有名人には
コネがあるからな」

「ねぇ、何かお礼したいんだけど…」

お礼か。
少し迷ったが、俺は思い切って言ってみた。
「なら…笑ってみせてくれ。それだけでいい」

玲子は泣き出した。
「無理よ。こんなに優しくしてくれたら、泣くしかないじゃない」

「仕方ないな。じゃあ」
片手を挙げて、玲子に別れを告げた。

玲子が二、三歩歩き出して止まった。
「ねぇ、また会えるかな…」

「あぁ、いつかまたな。」
思い切り格好をつけて振り向いた途端、
胸のポケットで『YOSAKU』が鳴った。

玲子が笑った。
与作の野郎も時々は役に立つ。

結婚する前の笑顔を玲子は見せている。
俺が一番好きな笑顔だ。

携帯の電源を切り、俺は玲子にそっとキスをした。