「お母さん、お母さん!」

「はいはい。あれま。奈緒、泣いてたの?さ、ハイキングしましょ」

「え?でも、お外、雨だよ」

分かってます、と由香里は弁当を取り出した。
「今日はお家でハイキング。目指すは二階よ!いざ進めっ!」

「うん!ほら、お父さんも!」

「あ、ああ」

外の雨に負けない歌声が響く。
お弁当はから揚げ、卵焼き、タコさんウィンナー、リンゴの兎。
どれもみな、奈緒が大好きな物ばかりだ。

「美味い」
心底から湧いた己の言葉に、博史は我知らず微笑んだ。
奈緒も由香里も笑っている。
ささやかな幸せが、こんなにも愛しい。
もう一度、やり直せないだろうか。
何度も反芻した想いが、口から溢れそうになる。

「お母さん、明日も明後日もハイキングしよう」

「あら、それは出来ないわ。奈緒は学校でしょ?
それにお母さん、失業しちゃう。
アパート追い出されちゃうわ」

「だったら一緒に暮らせばいいのに」