彼等妖しのモノ達から、尊敬と畏怖と親しみを込め、
この猫は先生と呼ばれていた。
その正体は猫の王、猫又と呼ばれる妖怪であるが、
ただの猫又ではない。

かつて、柳生十兵衛と共に大妖怪箱根天狗と闘い、これを破った猫である。
いまや、猫のみならず全ての妖怪の王と呼ばれるに相応しい存在である。
普段は穏やかに喉を鳴らしながら、居眠りばかりしている
先生だが、やはりいざという時の迫力は違う。
並み居る妖しのもの達がその場に凍りついた。

「い、いえ、滅相も無い、そんなこと。ただ、あたいは
新撰組が嫌いで嫌いで」

「だからこそ私がしばらくの隠れ場所を探して
いるのでしょう。軽挙妄動は慎むように言いませんでしたか?
貴方一人だけでは済まない、みんなが危なくなるのですよ」

「も、申し訳ございません」
せっかく戻した目鼻口が、また隠れてしまった。
一反木綿は最早、反物のように固まっている。

「まぁいいです。もう二度とやらないようにね。
それに…」

「それに?」

「わたしも新撰組は嫌いだ」
先生はぐるぐると喉を鳴らしながら、耳の後ろを掻いた。
いつもの穏やかな空気があたりに満ちる。
頃合や良しとばかりに、参謀役の油すましが前に進み出た。