携帯が無かった時代。

遊びに行く時は、前の日に待ち合わせ場所と時間を決めていた。

当日、急に用事が出来たりしたらどうしてたんだっけ?

思い出せない。

待ち合わせ場所は、大阪だったら京阪淀屋橋の出口近くのモニュメント。

大学が京阪沿線だったからね。
知ってる人は少ないだろうけど、じゃりん子チエというマンガで、チエちゃんがお母さんと待ち合わせた場所だ。

だから、仲間内では『チエちゃんの前』で通じた。

この場所に、俺はほろ苦い思い出がある。

卒業してしばらくの頃、三回生の頃に付き合っていた彼女から電話があった。

何だか今にも泣き出しそうな声だ。

この彼女、えらく浮気性な子で、俺は振り回されっぱなしだった。
この当時なんか、俺の連れと付き合っていたぐらいだ。

「どした」

「今から会える?」
「あぁいいけど。どこ行けばいい」

「チエちゃんとこ」
急いで向かう。
何やってんだ、と自分に突っ込む。


いた。
チエちゃんの前でうつむいて立っている。

今まで見たことの無いようなミニスカートだ。

俺と一緒の時は、ポロシャツにジーンズといったような楽なスタイルだった。

「よ。久しぶり」

「あ。ジョニーくん」

断っておく。
ジョニーってのは、軽音楽部時代の俺のあだ名だ。突っ込みたいだろうが、こらえてくれ(笑

「はいはい。どしたん」

で、突然泣き出さんばかりの勢いで恋の悩みを相談されたわけだ。

その時に、なんと答えたかは覚えてない。

ただ、彼女のミニスカートだけが記憶に焼き付いた。


なんだろうね、人の良い男にも程があるよな、そうぼやきながら帰った。


お互いに結婚してからは年賀状のやり取りだけが続いた。


今年、彼女は離婚した。
娘二人は夫に親権をとられたらしい。

仕方ない、彼女の不倫が原因だからね。

離婚の前も何度かメールや電話をやり取りしたんだ。

そのたび、俺の頭の中には、チエちゃんの前でうつむいていた彼女の姿が浮かんだ。


「あの頃、ジョニーくんの優しさがすごく負担だったの。なんだか大きすぎて。でもそれは、家族を持つと丁度良かったのね。失敗しちゃった」

彼女はそう言って笑った。


残念だが、先にそれに気づいた女と俺は家族を持った。

そう答えた。


チエちゃんの前で会うことも、もう無い。

携帯が無かった頃。
待ち合わせは今よりも、遙かに胸がときめいた気がする。