カステラは、やはり長崎の福砂屋に限ると、T君は熱弁を奮うのだ。

なんでも一般的には、白身も黄身も小麦粉も一緒に撹拌する手法が取られているらしい。

だがしかしと、ここで俄然、T君は身を乗り出す。

「福砂屋は白身を丁寧に泡立ててから、黄身とザラメを入れるんすよ!しかも最後の最後まで機械は使わない。どんなもんだ、乱蔵さん!」

どんなもんだと言われてもなぁ。

福砂屋のカステラが大層美味なることには異存は無い。

両手を挙げて賛成したい。

が、その先が、ちぃとばかし気になる。

彼はしみじみとこう言うのだった。

「あのふっくらとして、しっとりとしたカステラを部屋中に敷き詰めて、その上で寝てみたい…」


さぞかし甘い夢が見られるに相違あるまい。

我は妄想する。

ある朝、出勤してきた彼の後頭部には、カステラの紙がベッタリと付いているのだ。

彼はそれを剥がし、ここが最高に美味いっすよ、とばかりに前歯を立てるのだ。

容易にその姿が思い浮かぶ。