嫁はんが借りてきた本の一冊が
大変に気に入った。
『箸づかいに自信がつく本』という。

実のところ、俺は全く箸づかいに自信が無い。
この歳になってまだ、並行型が直らない。
親指と人差し指だけで上の箸を動かす為、
細かい物が取り難い。
箸の国に生まれた者として、大変に恥かしい。
一念発起して、昨日から練習を開始した。

難しいが面白い。
ギターのフレーズなら、何だってこなせる
この指が全く言うことを聞かない。
だがしかし、俺はしつこいのだ。
へっへっへ。

二ヵ月後。

努力の甲斐有って、俺の箸づかいは
芸術の域にまで達した。
ガラスの箸で大豆を掴むなど朝飯前。
素麺も掴めりゃ納豆も掴める。
その気になれば、飛んでいるハエも掴めるのだ。
でも汚いからやらないけどね。

そしてなんと今日、びわ湖放送が取材に来るという。
6時のニュースで放映するらしい。
いいのかな、こんなことで公共の電波に乗っちゃって。

「どうも。BBCです。」

あ、どうも。つくねです。

「早速ですが、見せていただけますか。
あ、君たち、あまり近づかないように」

では。さくさくっと。
ほりゃ。そりゃ。

「素晴らしい。おい、今の取れたか?」

「ばっちりです、プロデューサー」

「うむ。では奥さん、こちら謝礼です」

あ。そんな大枚。ずるい。

「なぁに?乱」

いえなんでも。

さぁて、6時のニュースだぞ。楽しみ。
録画の準備もOK。


『さて、次は大変に珍しいニュースです。
まずは映像を御覧ください。
では。上手に箸を使う熊です」

『まぁ。よくここまで仕込みましたねぇ』



……もう少し右から撮って欲しかったな。

その頃、嫁はんは娘と若様を連れて
温泉でぬくぬくなのだった。