ひんやりとした空気の中に腐臭が漂う。
韋駄天は唸り声を止めた。
本当に危機が訪れた時、この犬は沈黙する。

針一つ落としても聞こえるであろう静かな空間に、衣擦れの音がした。
本堂の奥から、よたよたと老人が現れたのだ。
だが果たしてその姿を老人と言ってよいものか。
まるで木乃伊(ミイラ)が身を起こし、歩き出したような姿なのだ。
その木乃伊が口を聞いた。
木枯らしが吹きぬけるような音がする。
それが木乃伊の声であった。

「これはこれは十兵衛殿。よくぞ参られた」

「これはしたり、木乃伊と思えば何の事は無い。
やはり天海僧正であらせられるか。
いかなる事か、そのお姿」

再び木枯らしが吹きぬける。人の魂をも凍えつかせるような声だ。
「わしはもう、百を越えておる。何の不思議もなかろう。
だが、これからお見せするのは…ちと不思議かもしれぬのう。
布袋和尚。大黒天。頼むぞよ」


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