小山幼稚園の送迎バスには、二つの特徴がある。一つは、バス前面に描かれた熊さんの顔。
もう一つは、運転手だ。

倉橋光彦という名前だが、みんなからはヒゲ熊さんと呼ばれていた。
その名の示す通り、立派なヒゲを蓄えた大柄な男である。
一見すると、恐ろしく近寄りにくい男だが、子供たちは全く怖がらない。その目が堪らなく優しいからだ。
子供を見つめる時のヒゲ熊は、大きな目が糸のように細くなる。

だが、それだけが人気の秘密ではない。
幼稚園に向かう道すがら、ヒゲ熊は自分で作った童話を話すのだ。

「ヒゲくまさん、きのうのつづきー」

「おぉ。みんな聞きたいかぁー」

「ききたぁーいっ!」

子供たちは、幼稚園の先生の言うことは聞かないが、ヒゲ熊の話は黙って聞いた。
また、それだけのことはある話なのだ。

全て自作だという話は、ハラハラドキドキさせながらも、時には涙を流させ、時には大爆笑させるものであり、同乗する先生方の人気の的でもあった。
子供たちは、その日聞いた話を親達に得々と話した。
父兄の中には、眉をひそめる者もある。
時には乱暴な言葉や、ふざけた表現もあったからだ。
けれども、もちろん子供たちはそんな事には一切お構いなしである。