「わしの最後の技じゃ。この袋、どこまで広がると思う?
教えて進ぜる。この寛永寺ぐらいなら、全て飲み込むことが出来るのじゃよ。
貴様ら、わしと一緒に腐ってしまえ」
袋が恐るべき速度で拡がっていく。
まるで津波のように十兵衛に迫り、その足を捕らえた。
十兵衛が太郎丸に叫ぶ。
「紫近を連れて逃げろ。早くっ!」

「判ったっ!姉ちゃん、早くっ!あ。何すんだよ、姉ちゃんっ!」

紫近が太郎丸の手を振り払い、十兵衛の胸に飛び込んでいったのだ。
「馬鹿っ!早く逃げろと言っただろうがっ!」
叱咤する十兵衛の口を紫近の唇が塞いだ。
驚いて黙り込む十兵衛に紫近がささやく。
「今度は一人では行かせません。紫近大夫、最後の道中は
大好きな十兵衛様と一緒に、地獄まで行きます」

「馬鹿…。くそ、もう間に合わんっ。
太郎丸行けっ!俺たちは絶対に生きて
ここから出る。約束だっ!」

「十さんっ!」

「早く行けっ!」
十兵衛と紫近が微笑んで袋に飲み込まれた。なおも袋は拡がっていく。
五重塔の二階が隠れてしまった。凄まじい大きさに成長している。
本堂も既に半分、飲み込まれた。
太郎丸と韋駄天は全力で走った。
寛永寺の門から飛び出し、後ろを振り返ると、袋は本堂と五重塔を
飲み込んだまま姿を消していた。
そこには黒い空間が広がるのみであった。
袋は十兵衛と紫近を飲み込んだまま、異なる空間に消えてしまったのだ。

「十さーんっ!お姉ちゃーんっ!」
太郎丸の声と、韋駄天の哀しい遠吠えだけが
いつまでも辺りに響いていた。

百六へ