そんな連中に隣近所を固められても、一向に俺は気にしなかった。
安い家賃には代えられないのだ。
世の中には凄い人達が居るなぁ、作詞のネタにならないかなぁと、ある意味楽しんでさえいた。


ところがある日の事。
今までで、最大の恐怖が訪れた。

久しぶりの休みに、のんびりと昼寝を決め込んでいた俺は、妙な臭いに気づいた。

次いで、カサカサという、これもまた奇妙な音。
左隣から聞こえてくる。

なんやろな、と起き上がろうとした俺は絶句した。


壁の隙間から大量のゴキブリが溢れ出したのだ。
隣が駆除剤を焚いたのだろう。
煙に追われて俺の部屋に逃げてきたのである。

ゴキブリ軍団は俺の腹の上を横切って、部屋のアチコチに身を隠した。

慌てて飛び起き、台所に走り、水で腹を拭いた。
その間にも目の前を奴らがうろちょろする。

そしてだな、何匹かは飛び回っているんだよ。

俺は辛うじて悲鳴を飲み込み、財布を握り締めて部屋を飛び出した。


薬局で駆除剤を購入し、部屋に戻る。

どちらにしても、練習に行く時間だ。

奴らを刺激しないようにソロソロとギターとバッグを持ち出し、駆除剤に点火して部屋を出た。

奴らが慌てふためく気配がする。

ふっふっふ、やったやった。

ニヤリと笑って駅に向かう俺の耳に絶叫が聞こえてきた。

俺の右隣からだ。
そりゃあれだけのゴキブリが現れたら絶叫するよなぁ。

一声かければ良かったのだが、時間が無くてね。

それでもまだ、俺はそこに住み続けた。
引っ越そうにも金が無い。

何より貧乏が一番怖かったという話。