壬生にある新撰組屯所には、無論、道場もある。
激しい稽古の音と凄まじい気合が漏れてくるのが常だ。
が、その日はいつもとは違った。
稽古の音は変わらぬが、聞こえてくるのは悲鳴と怒号。
羽目板を突き破って外に放り出されたのは、どう見ても
隊士である。
折れた右腕を庇い、呻き声をあげている。

壬生の狼達に悲鳴をあげさせているのは、
ただ二人の男であった。
いずれもが、隊士にとっては見慣れた顔である。
見慣れてはいるが、有り得ない。
死んだ筈の芹沢鴨と隊を命よりも愛する沖田総司、
新撰組を代表するその二人が
ぎらりと光る抜き身を下げて立っている。

既に、道場のあちらこちらに何人もの隊士が倒れ臥している。
見ると、全員が同じように肩を貫かれているようだ。
これでは、思うように刀が扱えない。
無駄な労力を使わず、必要最低限に留めた攻撃をやり遂げたのは、
沖田総司である。
その美しい顔立ちが怜悧に微笑み、いっそう凄みを効かせていた。

「土方さん、無駄です。これ以上の争いは止したがよろしい」

「そうそう、土方よ。もう諦めろや。お前等全員、天海様の復活に
役立ってもらうからな、出来ればあまり血を失いたくは無い」

「なんの事だ」
いきり立つ土方の前に、新たな敵が現れた。

「き、貴様、何故ここに居るのだ」

土方が驚くのも無理は無い。
老いた風貌ではあるが、凄まじい眼力を秘めた眼差しを持つ侍は、
長州の暴れん坊、来島又兵衛その人であった。