「お亡くなりに」
案の定、いぶは絶句した。
心配そうに熊が見守っている。

「大丈夫。熊、手が止まってるわよ」

「お、おう」
慌てて鱧の始末を始める熊を愛しそうに見やり、いぶは藤田に頭を下げた。

「ごめんなさい。藤田さん、お葬式にも行けなかった」

「いや、構わんよ。こっちこそ知ってたら連絡したんだが。
前から患っていたんだが、わしには内緒にしとったんだ。
全く、無理ばかりしよってからに。
わしに礼の一つも言わせずに行ってしもうたよ」

「あの、あとでお邪魔してもよろしいですか?せめてお線香だけでも」

もちろん、と返事をし、藤田は鯖味噌定食を食べ始めた。
玄米の飯に、鯖味噌が良く合う。
その日も御飯をお替りしてしまい、藤田は己の食欲に笑った。

「こんばんは」
絽の着物に身を包んだいぶが玄関先に立っている。
それだけで、家の中に涼しげな風が吹くようであった。

「あ、あぁいらっしゃい。さ、こちらへ」
仏間に案内し、藤田は共に仏壇に手を合わせた。
妻の遺影は、生前そのままに藤田に微笑みかけている。
なんだかその笑顔を久しぶりに見た気がした。