どうしてもあの手が欲しい。
あの手だけが有ればいい。
心も体も必要ない。

手が。
手だけが欲しい。

私は立ち上がると物置に向かった。
大きな植木鋏があるのだ。
多少、太い枝でも簡単に切れる鋏である。

しばらくの間、彼女の行動パターンを探っているうち、
素敵なチャンスを見つけた。
私は植木鋏を隠し、スタジオのあるビルに向かった。
既に時計の針は午後十時を指している。
今日、撮影の為にここに来る事は、プロダクションの資料から探ってある。

来た。
チャンスは一度だけだ。

運転席側の窓が開く。
彼女が駐車券を取ろうとした瞬間、機械の後ろから
飛び出し、その手に植木鋏を当て、一気に力を込めた。

ぢょきり。

軽やかな音を立て、典子の手は持ち主から自由になった。
私は大切にそれを鞄に入れると、急いで駐車場から逃げた。

背後で、典子の絶叫が聞こえ出した。
おそらく、落とされた時は、一瞬熱さを覚えただけなのだろう。
ようやく痛みが追いついてきたというわけだ。

そんなことは私にはどうでも良いことだ。
今、私の鞄の中には恋焦がれた手がある。

触ってみた。
驚いた事に、少しだけ動いた。

まだ温かい。
唇が血で汚れるのも構わず、私は口づけした。

終へ