喧し屋の沖田の名は、役場でも知れ渡っている。
顔なじみの職員、片瀬が出てきた。
「どうした。沖田さん、えらい剣幕じゃないかね」

「ええか、ワシゃ物知らずじゃ。教えてくれ。
いつの間に、テレビは見られんようになったんじゃ!
ワシゃ、テレビを見んから知らんのじゃ」

片瀬は一瞬、返答に詰まる。

「どうなんじゃ」

「今月の24日でアナログ放送、つまり今まで見ていた
テレビは見られないんだよ。その代わり、デジタルと
言って、画像も音も良い放送に」

「誰がそうしてくれと頼んだんじゃ。何故、見ている
わしらがどちらか選べないんじゃ」

すでに片瀬は答えるのが面倒になっていた。
「お国が決めたんだよ。仕方ないだろ?
テレビかコンバーターを買えば済…」

沖田は片瀬の胸倉を掴んだ。
「おまえ、佐和ちゃんを知ってるな?!」

「苦しい、離してくださいよ。佐和さんなら知ってますよ」

「手首切ったぞ」

「え」

「おまえも知ってるじゃろうが。錦山を応援することが、
どれだけの力をあの人に与えておったか」

片瀬の顔色が悪いのは、胸倉を掴まれているだけでは無い。
「テ、テレビが見られないだけで…そんな…」

「テレビが見られないだけ。おまえ、そう言うたか。
寝たきりの年寄りには、テレビだけが世間との窓口だと
判らんか。もうええ。おまえさんに言うても仕方ない。
こちらにも考えがある。国会議事堂に殴りこむ」

「沖田さん、無茶だ」

「無茶はどっちじゃっ!年寄りのたった一つの
楽しみを法律で奪う権利が国にあるのかっ!」
獅子の咆哮を残し、沖田は役場を後にした。

三へ