仁科は、試しに前蹴りを教えてみた。

「いいか、右足の膝を上げて、相手のみぞおちに
向けて…そうだ。最後に軸足を少し捻るのがコツだ。」

やはりそうであった。
前蹴りを教えている間、哲郎は、ずっと片足だけで
立っていた。
それなのに、微動だにしない。
仁科は、思わぬ才能を発見したことに興奮を覚えた。

「ぼうず、おまえ、鍛えたら強くなれるぞ」

「ほんとうけ?」

「あぁ、間違いない。まずは踏み込み。
そして突き。前蹴り。この三つだけでいい」

「うん、おらやってみる!」

残念だ。もう少し早く会っていたら、もっと教えてあげられたのに。
仁科は悔やんだが、もう遅い。

山を降りる日は一週間後に迫っていた。
山を降りる日、仁科を前にして哲郎は手放しで泣いた。
初めての師匠であり、大切な友達である仁科との別れが
心底悲しかったのだ。

七へ