十兵衛は久しぶりに出会った父、宗矩のあまりの
代わり様に愕然としていた。
「父上。どうなされた、その痩せ様は。どこかお悪いのか」

「十兵衛か。確かに病んでおる。だが、この病、医者や薬では
到底治らぬ」

それでは何が、と言いかけて十兵衛は、ふと思い当たった。
「どなたかに呪式をかけられましたな?」

宗矩は壮絶な笑顔を見せた。
「さすがじゃ。それでこそ柳生一の剣客」

「相手は。相手の見当は?」

「ついておる。良いか、十兵衛。心して聞け。
おぬしを呼んだのは他でもない、その相手を退治て欲しいからよ。
ことはわし一人の問題ではないのだ」

ごほごほと咳き込む。
十兵衛は思わず、近寄って背中をさすった。
痩せ細った宗矩の背中が痛々しく、さする手が止まった。
「父上一人の問題ではないと?」

「さよう。恐れ多くも上様も同じ呪をかけられておる。
そして、その相手の名は」
宗矩は声をひそめた。まるで、その相手が聞いているとでもいうように。

「天海僧正」

思わず息を呑み、父をさする十兵衛の手が止まる。
「天海…しかし、あの者はすでに齢百歳に近い者。
第一、江戸幕府を創り上げた影の人物…」

「だが間違い無いのだ、十兵衛。彼奴は堂々と宣言しおった。
江戸幕府を潰す、と」
確かに、天海は陰陽道、風水に通じている。
だが何故に秀忠公のお命を狙うかが判らない。


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