麦は八ヶ月にして子どもを産んだ。
まだ、自分自身が子どものくせにね。
その頃の飼い主は、麦の面倒を全く看なかったらしい。
それどころか、面倒だからと保健所に連れて行こうとした。

御近所に動物保護ボランティアが居なければ、麦は、その時点で殺されていた。

一時預かりのお宅で、麦は出産した。
自分が遊びたい盛りなのに、子どもの側から離れようとせず、
乳をやり、排泄の始末をし、懸命に育てた。
下手したら、人間でも出来ない奴がいるのにな。

おかげで樂は何も知らずに、すくすくと育っている。
きゅうきゅうと鳴き、よたよたと這いずりまわっている。
樂はこの先、母親と離れることはない。

麦。
頑張ったな、おまえ。
初めての人間にも敵意を見せないのは、
子どもを守るためだろ?
そんなに痩せているのは、まずは子どもに乳を
あげていたからだろ?

麦、
もっと太れ。
柴犬らしく、ふかふかした体になれ。

俺達は、焦らずに待つよ。
お前の尻尾がブンブン振られるまで。