「疲れた。あたし、疲れたって」

誰に言うとも無く、一人ごちて窓の外の闇を見つめる。
その闇が動いた。
闇よりも黒い猫が、ほたほたと歩いてくる。
黒檀であった。
少女がサッシを開けるのを待ち、黒檀はひらりと中に入った。

「お前、どこから来たの?ここの子?」
話しかける少女の膝に、ふぅわりと飛び乗ると、
黒檀はスフィンクスの姿勢を取り、少女の気を探り始めた。

(あぁ、やはりそうだ。黒い。さて、行くか)
黒檀は少女に巣食う『黒』を吸い上げ始めた。
哀しみ、苦しみ、一人ぼっちの辛さ、これからの不安、
大人達への苛立ち、それら全てが黒々とした塊になり、
少女に蓋をしているのだ。

黒檀はそれを吸い上げる。
吸い上げた『黒』は、黒檀を媒体として白蓮に送られる。
白蓮は、その土地にある弱りきった桜の根元で待っている。
送られてきた『黒』を次々に桜の根元に解き放つ。
『黒』は絶好の肥料となり、桜を育てるのであった。
黒檀はブラックホール、白蓮はホワイトホールなのである。
二匹はこうして、各地の桜を守っているのだ。