この時期になると、いつも思い出すことがある。

ミュージシャンを目指していた俺は、もちろんそれだけでは食っていけず、生オケのバイトをしていた。

要するに、客のリクエスト曲を生演奏するわけだ。

赤本と呼ばれる分厚い歌本がある。
歌詞とコード進行しか書いてない。
これだけを頼りに、適当にアレンジやアドリブを入れて演奏する。

編成はギター、ドラム、ベース、キーボード。

下手するとキーボードが居ない時もある。
その編成で、ロックから歌謡曲、演歌まで何でもやった。

カラオケとは違い、歌い手の力量に合わせ、テンポを変えたり、出だしが判らなければ『せぇの』と言ってあげたり、なかなか評判は良かった。

中には本格的なジャズを歌いたがる女性や、ヘビメタを歌いたがる若造もいる。
それを唯一の息抜きにして、夜中から明け方近くまで演奏し続けたものだ。


その日は割と暇だった。お盆が近く、街全体が静かだった。
今日は早めにあがるかと店のオーナーが言った途端、年配の男性客が四人、入ってきた。

かなりご機嫌に出来上がっている。

早速、俺達に気がついた。


二へ