それは不思議な石像であった。
細身の青年である。
ジーンズにヨットパーカー、大きめのディパックを
背負い、今にも歩き出しそうな躍動感に満ちている。
その顔はまっすぐに海を見ていた。

旅先の島で、私は偶然その石像を見つけた。
何も無い野原を突っ切る道である。
村からも遠く離れており、何故こんな所に立っているか
分からないが、いずれ名の有る彫刻家の作品に違いない。
石像は、そう思わせるほど精密であった。
その表情は、穏やかに微笑んでいる。
見ているだけで暖かな気持ちに包まれた。
余りに熱心に見ていたせいか、背後に人が来ている
ことに気がつかなかった。

「いい顔してるでしょ」

驚いた私がそこに見たのは、美しい女性であった。
長く黒い髪と白いサマードレスが印象的だ。
その髪をかきあげながら、女性は微笑んだ。
「こんにちは。旅の人?あたしは仁美。よろしく」

「あ、こんにちは。これ、凄い石像ですね。なんだか、今にも動き出しそうだ」
そう答える私に近づきながら、仁美は石像に優しく触れた。

「晃っていう人なの。生きて動いてたんだから、
動き出しそうに見えて当然よ」
怪訝な顔を浮かべる私に、彼女は語り始めた。