「ところがね、門外不出の日本地図を持っていた為に出国を命じられたんです。
鎖国の時代ですから、奥さんも娘も連れていけません。
オランダに帰ってから彼は、大好きだったアジサイの花に
オタクサという名をつけました。
オタクサ、つまりお滝さんです。」

ですから、と熊は祐子にアジサイを手渡した。

「これは貴女のことを愛しく思うという心の現われです。
今、日本は鎖国してませんよ。ついて行くのは自由です」

あきさくらのママが祐子の手を引いて立たせた。
「何やってんのよ、早く連絡してきなさいっ!」

「は、はい。ありがとう、ママ。熊さんもありがとう。それと
そちらの席の方も」

ねこやが小さくピースサインを出した。

熊は祐子を見送ってから店内に戻った。
ゆっくりと店内を見渡す。
みんな、笑顔だ。

ありがたい、今日も笑顔を見ることが出来た。

小さな花が集まってアジサイになる。
小さくても笑顔が集まればアジサイのような花が咲く。

そしてこの店に咲く笑顔のアジサイは、
決して心変わりはしないだろう。