通常の相手なら、まずは間合いを取る。

相手が突っ込んでくるなら、捌いて体を流し、すれ違いざまに顎に膝を入れる。

様子を見る相手なら左のジャブで誘う。出てきてからは同じだ。

だが、こいつが相手なら悠長なことは言ってられない。

始まった直後が勝負だ。
相手には遠間に見えるだろうが、俺の攻撃範囲は広い。

左のインローが、油断している緑色の太ももに吸い込まれるように伸びた。
大抵の相手なら、これでぐらつく。
連続で飛び込みざまに奥足を刈るように蹴る。
よろめいた体を迎え打つのが右のアッパーだ。

俺の必勝パターンが綺麗に決まった。

が、奴はビクともしない。

ボディーを叩いた気がしない。まるで、緑色のタイヤだ。

ゆっくりと奴が体を起こした。
とぼけた目で笑う。二本の前歯が、余計に剥き出しになる。
やはり、何のダメージも無い。

恐竜の子供だ、耐久力はあるに決まっている。

子供達のヒーローであるこいつを倒すのはなぁ、などと甘い事を考えていたらやられる。

事実、奴は体を起こしながら、俺にしか聴こえない低い声で歌い始めていた。

「食べちゃ~うぞ~」


二へ