長期に渡る入院中、ヒゲ熊は毎晩泊まりこんだ。
早くに妻を亡くし、父一人娘一人の彼にとって、娘は命であった。

退屈している娘の為に、思いつくままに出鱈目な作り話を始めたのが切欠で、ヒゲ熊は毎晩毎晩話し続けた。

才能があったのは確かだが、それよりも彼にあったのは、娘を喜ばせたいという一心であった。

視力を失った娘の為に、詳細に姿形や風景が浮かぶような文章を考え、歩けない娘が世界中を旅する話を練り上げ、将来の夢さえ持てぬ娘に様々な冒険をさせた。

二年間で600話近くを創作したヒゲ熊の努力は、けれども結局報われなかった。
葬儀の会場で、ヒゲ熊は娘の柩に向けて最後の話をした。

それは、心優しい子猫が、幾つもの試練を乗り越えて、最後に母親に出逢うという話であった。

その話を聞き、涙を流さぬ者は居なかったという。


「だからね、あの人が今、子供たちに話しているのは、娘さんの為に作った話なんだよ。よく思い出してごらん。どれほどふざけた内容でも、優しい愛に溢れてないかい」

確かにそうだ。
ヒゲ熊さんが今までに話してくれたお話は、皆、その根っこには優しさがあった。
だからこそ、子供たちは安心して聞けたのだ。