「なかなかやるだぁね、絹さんよぅ」

ねこや堂の冷やかしに、更に顔を赤らめていた絹田に
熊が不思議そうに言った。
「そんな幸せな時期なのに、なんで沈んでるんですか」

「そうだよね、どうして」
理恵も問う。

「うん。それもこれも俺のせいだ。俺な、今の美登里さんを
絵に描きたいって頼んだんだよ。俺の目の前で、
ほんのりと微笑む美登里さんを描きたいんだ。
でもな、それが良くなかった」

ようやく綻び始めていた絹田が、また固い表情に変わる。
「美登里さんが言うには、自分の老いさらばえた姿を残したく
ないんだと。映画出演を断ったのもそれが原因なんだよ。
女優として、美しいままの姿を残しておきたいと。
今の自分は散った桜だ、二度と咲かない、そう言ってさ。
寂しく笑うんだよな」

理恵がしみじみと頷いている。
「わかるねぇ、その気持ち。女優として、綺麗な姿だけを
残しておきたい。痛いほど判る。
あたしだって、そう思うなぁ」

「でもな、俺は今の美登里さんが本当に綺麗だと
思うんだよ。な、熊、判るだろ。
内面の美しさっていうか、佇まいの美しさっていうか、
あぁ、俺は口下手だから上手く言えねぇんだよな、くそ」
結局その夜、絹田は寂しげに背中を丸め、店を後にした。