仁美は驚きのあまり、一瞬、声をなくした。
零れ落ちそうなぐらい、大きく目を見開いている。
ようやく言葉が出た。
「だって、それじゃ兄ちゃん死んじゃう」

「大丈夫。続けさえしなけりゃ、一晩で元に戻るから。
今、影が薄く見えるのは、さっき横山のお祖母ちゃんの
風邪を治したからさ」

次の朝、いつもより早く朝食を持って行った仁美は、
晃の影が元通り濃くなっているのに安心した。
「ほんとだ。不思議だねぇ、兄ちゃん」

「まぁね。僕にも何故だか分からないけど、人の役に立つなら
このままで良いかな、って思うのさ。さ、今日は何して遊ぼうかな」

よーいどんで海岸へ走る晃を追いかけ、仁美も走り出した。
このまま一緒に居られたら、そう思いながら後を追う。
晃の背中越しに見える海が、やたらと眩しく光って見えた。

秋が過ぎ、冬が終わり、春を見送り、そしてまた夏が来ようとしていた。
一年の間、晃はずっと村人達を治し続けていた。
少し痩せたように思えるが、変わらぬ笑顔がそれを意識させなかった。
何人かは気づいていたのかもしれないが、敢えて無視したとも言える。
医者の無い状態が長く続いていたからだ。
晃が居る限り、病気や怪我も怖くは無かった。

昨日の台風で、被害を受けた畑や道路の片付けを終えた
村人達が村の役場に集まっている。
晃をどうやって引き止めようかと相談をしている最中、事件が起こった。