「どうしたの?」

心配気な妻の顔を見て、昭信さんはようやく口を開いた。
夢を見たのだという。
若い兵隊が現れ、福井へ連れて帰ってくださいと頭を下げたらしい。
幸い、福井は帰り道である。
言われた住所を訪ねてみると、そこには年老いた女性が
一人だけで暮らしていた。

何も事情を話さぬ前に、老女は頭を下げると、
「おかえりなさい、あなた」
そう言って涙をこぼした。
昨夜、軍服姿の夫が夢に現れ、帰るからねと告げたという。

仏壇に案内され、篠田さん夫婦は手を合わせた。
その遺影は、まさしく昭信さんが夢で見た兵士であったという。


帰りの電車の中で昭信さんは居眠りを始めた。
また、寝言。
しかも、今度もまた昭信さんの声ではない。
以前の若い男の声でもなかった。
新たな声は、こう言った。

「香川県に行ってください」