太郎丸も韋駄天も思いは同じだ。
太郎丸は紫近に、姉というよりも母を見た。
その思いが伝わったからこそ、普段は他人に馴れる事のない
韋駄天が紫近にだけは、なついたのだ。
太郎丸は心の中で故郷にいる婆と、茜に謝った。
命を捨てる覚悟をしたのだ。
この瞬間、彼は少年では無くなった。
一人の漢となった。
その気配を見逃す十兵衛ではない。
走りながら太郎丸に話し掛けた。
「太郎丸。おまえ、今でも俺の用心棒だよな」
何をいまさら、と言った風に太郎丸が答える。
「…う、うん。でもおじさん強いからなぁ」
十兵衛は立ち止まった。
「用心棒なら、雇い主の言う事を聞け。いいか」
太郎丸も韋駄天も止まる。
「ああ、いいよ。何だい」
十兵衛は、太郎丸の肩に手をおき、じっと見つめた。
この男がこれほどまでに、と思わせる優しい目だ。
太郎丸は、その瞳に父親と同じものを感じ戸惑った。
十兵衛は懐から手紙を取り出した。
「いいか、この事が終わり次第、この手紙を柳生の里に届けてくれ」
「え…」
「この手紙に、お前達が柳生の里で暮らせるように書いた。
これを持っていけばお前達に便宜を図ってくれる。」
「いやだ。」
「なに?」
「おじさんも、いいや、十兵衛様も又佐爺ちゃんも、紫近姉ちゃんも
一緒じゃなきゃ嫌だっ!」
十兵衛が笑った。
「無論だ。俺もまだ、行かなきゃならない場所があるんだよ。
これが終わったら、その約束を果たしに行く」
そう言って、己の左肩を触った。まるで、そこに何かが乗っているように。
八十六へ
太郎丸は紫近に、姉というよりも母を見た。
その思いが伝わったからこそ、普段は他人に馴れる事のない
韋駄天が紫近にだけは、なついたのだ。
太郎丸は心の中で故郷にいる婆と、茜に謝った。
命を捨てる覚悟をしたのだ。
この瞬間、彼は少年では無くなった。
一人の漢となった。
その気配を見逃す十兵衛ではない。
走りながら太郎丸に話し掛けた。
「太郎丸。おまえ、今でも俺の用心棒だよな」
何をいまさら、と言った風に太郎丸が答える。
「…う、うん。でもおじさん強いからなぁ」
十兵衛は立ち止まった。
「用心棒なら、雇い主の言う事を聞け。いいか」
太郎丸も韋駄天も止まる。
「ああ、いいよ。何だい」
十兵衛は、太郎丸の肩に手をおき、じっと見つめた。
この男がこれほどまでに、と思わせる優しい目だ。
太郎丸は、その瞳に父親と同じものを感じ戸惑った。
十兵衛は懐から手紙を取り出した。
「いいか、この事が終わり次第、この手紙を柳生の里に届けてくれ」
「え…」
「この手紙に、お前達が柳生の里で暮らせるように書いた。
これを持っていけばお前達に便宜を図ってくれる。」
「いやだ。」
「なに?」
「おじさんも、いいや、十兵衛様も又佐爺ちゃんも、紫近姉ちゃんも
一緒じゃなきゃ嫌だっ!」
十兵衛が笑った。
「無論だ。俺もまだ、行かなきゃならない場所があるんだよ。
これが終わったら、その約束を果たしに行く」
そう言って、己の左肩を触った。まるで、そこに何かが乗っているように。
八十六へ