ようやく仕事が終わった。

「おつかれ」
バンドのメンバーに一言だけ掛けて店のドアを押した。

太陽はまだ昇り始めたばかりだ。
弱々しいその光ですら、俺には眩しすぎる。

使い古したジッポーで、ハイライトに火を点ける。
また二箱吸ってしまった。
煙と共に朝の冷気が肺に染み込んできた。

むせ返った俺を見て、野良猫みてぇな女が笑って通り過ぎていく。

俺も落ちたもんだ。
十年前なら、俺を見て笑う奴など居なかった。
街も変わってしまった。
歳は取りたくないもんだ。

昨日から七度目のセリフを吐く。

指もあまり動かなくなってきた。

細かいフレーズは誤魔化すしか無い。

酔っ払った客にはそれでも充分だ。

マンションとは名ばかりの安普請のアパートに戻り、ドアを閉める。

せっかくの朝日を締め出し、テーブルの日本酒を呷る。

どうせ米から作っているのだ、朝飯代わりに丁度良い。

腹に火を灯したまま、シャワーも浴びずにベッドに横になった。



夢を見た。


俺は、狭いけれど居心地の良さそうな家に居る。
俺の側には家族がいる。
一ヶ所に集まって、何か話している。


俺を含めて四人か…
四歳ぐらいかな、可愛らしい顔つきの男の子が屈託のない笑顔を見せている。

その隣に居るのは娘か…
少し歳が離れているようだ。
面白い女の子だなぁ…

俺の隣には、美しい女性がいる。
落ちついた物腰だが、活発な女性のようだ。
同じように、いや一番笑っている。


俺は何をしてる?


……あぁ、なんだ俺は。

俺は、そんなふうに笑える男なのか。

なんて楽しそうな家族なんだろう。

この女性に出逢えたら、俺はこんなにも変われるのか…


どこに居るのだろう。

この人生で出逢えるのだろうか。




そして俺は君と出逢えた。

俺の人生を変えてくれた人と出逢えたんだ。

誕生日おめでとう、嫁はん。