「もうな、来年を目指すっちゅうのはどないやろ」

Nちゃんは、しばしの沈黙の後、顔を上げ、俺を見つめた。
「…あかんねん。ほんまに時間があらへんねん」

俺はその時、思い当たった。
時間が無い、つまりは来年の母の日まで生存している確率が低いということなのだ。

「看護師が患者の時間を決めてどないすんねん。
今の、俺は聞かなかったことにする。
泣いてる暇有ったら手を動かさんかい」


「うん」

頭の一つでも撫でてあげたいところではあったが、心を鬼にして教えこんだ。

その甲斐有って、彼女は完璧にカーネーションと、それを入れる飾り箱を折れるようになった。

喜んでいる暇は無い。
これからが大変なのだ。
俺が補助できたら良いのだが、ここから先は彼女の仕事だ。

「ありがとな、乱さん。
このお礼は体で」

「んなややこしい礼はいらん!缶コーヒー買うてくれや。ブラックな」


缶コーヒーをポケットに入れ、俺はNちゃんを見送った。

胸の中で、どうか間に合いますように、と呟く。


いや、Nちゃんの想いがあれば、そして何よりもその子の母への想いがあれば絶対間に合うに決まってる。

母の日には、箱一杯に詰めたカーネーションが、その子のお母さんを待っているに違いない。