「又佐、四日市の宿で飯を食うか。」
「そうですな、若と私の足ですからな、ゆっくりと
歩いても早々に江戸には着きましょう。
あそこの宿場には名物のなが餅がありますぞ」
又佐もまた、旅が好きなのだ。若い頃には、武者修行の旅に出たとも聞く。
十兵衛の見張り役とはいえ、江戸行きが楽しくないわけがない。
自然と足取りも軽くなる。
峠を下り、街道をしばらく歩いた時、おもむろに
十兵衛が又佐に話し掛けた。
「又佐。気づいてるか」
又佐は当然、といった顔つきで十兵衛にうなづく。
「何者でしょうな。えらく変わった気配ですな」
「見てみるか」十兵衛が歩みを止めた。
と同時に、気配がする方角に向け、礫を投げる。
かん、と甲高い音を立て、礫が木立に当たった。
木立の影から現れたものを見て、又佐が目を剥いた。
人の姿はしているが、人ではない。
人は、あのような長い腕は持っていない。
だらりと垂れた腕は、ほとんど地面と接触していた。
「わ、若…なんでしょうか、あれは」
「腕の長い御仁だな。背中を掻くのに便利だろうな」
「あのような物、絵草子の中だけのものと思っておりました」
十兵衛は腰に帯びた愛刀、三池典太光世に手をかけつつ、
又佐を背中にかばう。
「いるんだよ、又佐。それは妖しのもの、と呼ばれる」
つま先ひとつ分だけ、ずい、とにじる。
「俺は天狗やら牛鬼やらと闘った」
「お戯れを」
「それがそうでもない。のぅ。お主、妖しのものであろう」
もう半歩。
腕長は何も答えず、両の手に大振りの山刀を持った。
鉈よりも分厚く、それでいて鋭い。
六へ
「そうですな、若と私の足ですからな、ゆっくりと
歩いても早々に江戸には着きましょう。
あそこの宿場には名物のなが餅がありますぞ」
又佐もまた、旅が好きなのだ。若い頃には、武者修行の旅に出たとも聞く。
十兵衛の見張り役とはいえ、江戸行きが楽しくないわけがない。
自然と足取りも軽くなる。
峠を下り、街道をしばらく歩いた時、おもむろに
十兵衛が又佐に話し掛けた。
「又佐。気づいてるか」
又佐は当然、といった顔つきで十兵衛にうなづく。
「何者でしょうな。えらく変わった気配ですな」
「見てみるか」十兵衛が歩みを止めた。
と同時に、気配がする方角に向け、礫を投げる。
かん、と甲高い音を立て、礫が木立に当たった。
木立の影から現れたものを見て、又佐が目を剥いた。
人の姿はしているが、人ではない。
人は、あのような長い腕は持っていない。
だらりと垂れた腕は、ほとんど地面と接触していた。
「わ、若…なんでしょうか、あれは」
「腕の長い御仁だな。背中を掻くのに便利だろうな」
「あのような物、絵草子の中だけのものと思っておりました」
十兵衛は腰に帯びた愛刀、三池典太光世に手をかけつつ、
又佐を背中にかばう。
「いるんだよ、又佐。それは妖しのもの、と呼ばれる」
つま先ひとつ分だけ、ずい、とにじる。
「俺は天狗やら牛鬼やらと闘った」
「お戯れを」
「それがそうでもない。のぅ。お主、妖しのものであろう」
もう半歩。
腕長は何も答えず、両の手に大振りの山刀を持った。
鉈よりも分厚く、それでいて鋭い。
六へ