「馬鹿な。若がそのような事に力を貸すと思うのか!」
又佐が天海の言葉が終わらぬうちに叫んだ。

「その通り。この十兵衛、世をすねてはみたものの、まだまだ
この国が好きでな」
この時、十兵衛が油断無く見つめているのは天海では無かった。
また、布袋でもない。
大黒天である。 先ほどから十兵衛の意識が何か危険なものを感じている。

天海が快活に笑った。
「判っておる。わしが借りたいのは、人間としての十兵衛ではない。
妖しのものとしての十兵衛じゃ。大黒天。見せてやれ」

大黒天がふわりと降りてきた。

「承知」
一言だけ答え、大黒天は何事かを僧兵に命じる。
僧兵は、一人の男を連れてきた。
見ると、先ほど境内で倒れていた男だ。
大黒天は、その男の側に立ち、打出の小槌を振るった。
しゃらんしゃらんと鈴の音がする。
男は膝を抱え込むように座り込むと、徐々に小さくなっていく。
鈴の音がするたび、小さく小さくなっていくのだ。

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