「おや、春ちゃん。どうしたの」
シゲさんがベッドの上で、お地蔵様のように微笑んでいる。
並んで座っているのはディーサービス担当の井上真子だ。

「シゲさん、まいど。どうしたのちゃうがな、井上、めっちゃ
びびって電話してきたんよ」
春美も笑顔を返しながら、シゲの様子を確認した。

(やばいな)
見るからに熱中症だ。
加えて、右大腿骨が異様に腫れている。
それなのにシゲさんは、よたよたと台所に行こうとしている。
「今、紅茶煎れるからね」

「あ、シゲさん、ええよ。気ぃ使わんといてぇな。
それより早く病院行こ」

「おやま、そう?残念だねぇ、いいニルギリが手に入ったのに」

「はは、今度また飲ませてもらうわ。さ、行こ行こ」

「春さん、すんません、今日遅出っすよね」
恐縮する真子に入院の支度を指示し、春美は
携帯を取り出した。
あれは確実に骨折している。
整形外科の現場で何年も経験を積んできた春美には、
確信があった。
シゲさんを車椅子に乗せ、施設の介護車の後部スペースに運び入れた。