戸に指が掛かったのだ。
誰かが中に居る。
内側から押入れを開けようとしている。
身動きも出来ず、悲鳴もあげられぬ恭子の目前で、
押入れの戸がスルスルと開けられ、横向きの顔が覗いた。
髪の毛がダラリと垂れ下がる。目だけが見える。
その目がギロリと恭子を睨み付けた。
恭子は崩れ落ち、失神した。
それは、しばらく恭子を見つめ、ピシャリと音を立てて押入れを閉めた。

恭子が意識を取り戻した時、すでに夜が訪れていた。
ぼんやりと押入れを見つめ、先ほどの事を思い出した。
腰が抜けたまま後ずさり逃げ始める。
何もかも捨てて、とにかく逃げるしか無い、

逃げよう、もうイヤだ。
いつの間にか言葉に出している。
その背中が何かにぶつかった。
顔だけを上げ、ぶつかった物の正体を確かめた。

「うぁぁぁぁぁっ!」
今度こそ悲鳴が出た。

「逃げなくて良いのに…」
優しく話しかけてきたのは秀一だった。