中学生になっても、高校を卒業する時が来ても、相変わらず綾は『どらきゅりゃ』であった。

「ふぅむ。それはあれやな、脳に刷り込まれてますな」

「ますなじゃないっ」

わはははは、と高らかに笑い、乱蔵は取り合おうとしない。
「いいじゃん、個性だよ個性。それに第一、君の人生でドラキュラなんて言葉、滅多に使わないし」

なんだか上手く丸め込まれた気がするが、こういう屁理屈で父に勝てた試しが無い。
綾は不承不承、納得し、それっきり忘れた。

その点で乱蔵は正しかった。
成人式を過ぎても、ドラキュラの話題など一度も出なかったのだ。


22歳の春。
綾にとって最良の日がやって来た。
好意を持っている男性からデートに誘われたのである。

「綾さん、つ、次の日曜日あいてますか」

「え、ええ」

「遊園地のフリーパスが当たりまして」
誠にもって純朴な誘いである。
綾は、尚更好きになってしまった。

「喜んで」

無論、父には言えない。言ったが最後、遊園地に潜むに違いない。

すごいことになってしまう

何故か平仮名で考えてしまう。

何とか上手く誤魔化し、綾は約束の駅に着いた。