紫近太夫の道中である。
新吉原にある京町の遊女屋から江戸町の揚屋に向かう。
京から江戸、ということでこれを道中と呼ぶ。
紫近、と名を書いた箱提灯を持つ若者を先頭に、
かむろが二人、長持を持った若者が一人。
その後に続く紫近太夫は、すっきりと背を伸ばし緩やかに舞うように歩を進めていく。
声を立てるのも忘れた者達が見守る中、揚屋に向かう太夫の前を一人の
浪人が遮った。
「た、太夫っ!待ってくれ、今日は金を持ってきたんだ」
紫近太夫は艶然と微笑み、そこに何も無いように通り過ぎようとする。
「待ってくれ太夫」
「太夫の道中を邪魔するとは、さてもさても、野暮なかたでありんす。
ぬしさんには、ほとほと愛想がつきんした。
銭金つまれて転ぶ女が欲しければ、どうぞ湯屋にでも行きなんし」
小気味良い啖呵に見物衆から拍手と歓声が沸く。
が、たちまちそれは悲鳴に替わった。
一旦はくず折れて膝まづいた浪人が、刀を抜いたのだ。
三十五へ
新吉原にある京町の遊女屋から江戸町の揚屋に向かう。
京から江戸、ということでこれを道中と呼ぶ。
紫近、と名を書いた箱提灯を持つ若者を先頭に、
かむろが二人、長持を持った若者が一人。
その後に続く紫近太夫は、すっきりと背を伸ばし緩やかに舞うように歩を進めていく。
声を立てるのも忘れた者達が見守る中、揚屋に向かう太夫の前を一人の
浪人が遮った。
「た、太夫っ!待ってくれ、今日は金を持ってきたんだ」
紫近太夫は艶然と微笑み、そこに何も無いように通り過ぎようとする。
「待ってくれ太夫」
「太夫の道中を邪魔するとは、さてもさても、野暮なかたでありんす。
ぬしさんには、ほとほと愛想がつきんした。
銭金つまれて転ぶ女が欲しければ、どうぞ湯屋にでも行きなんし」
小気味良い啖呵に見物衆から拍手と歓声が沸く。
が、たちまちそれは悲鳴に替わった。
一旦はくず折れて膝まづいた浪人が、刀を抜いたのだ。
三十五へ