熱い。
血がこんなに熱いものとは、謙司は知らなかった。
トシ、という名前でしか知らない相手である。
その腹から、これほどまでもと思わせる血が溢れている。
その血は、トシの腹に刺さったナイフをつたって謙司の手を
真っ赤に染めた後、地面に滴り落ちていく。
振り出した雨がその血を洗い流していった。

「整列!前へ進め」
刑務官の声が響き渡る。
午前七時四十五分、木工作業所へ向かう列は、一言も発しない。
作業前に指導官から注意事項を聞かされる。
昨日、受刑者同士で軽い口論があったばかりである。
おのずと指導官の口調にも熱が入っていた。
冷めた目で聞いている者が一人いる。
殺人と傷害で三年の実刑を受けた謙司であった。
17歳という年齢の割りには小さな体の中に、
行き場の無い怒りとやるせない哀しみが満ちている。
既に何かを諦めてしまった者の顔であった。

「愛田。聞いているのか!」
指導官の激が飛んだ。
答えの代わりに見せる、独特な強い眼差しが謙司の気持ちを物語る。
反抗もしないが、反省もしない。
そう、言っている。
一日を無表情のまま過ごす謙司は、指導官や刑務官の悩みの種であった。