「ほんまにええなあ、これ」

「うん。好き。大好き」
肩の辺りで小さく手を振るチィ子ちゃんに笑顔を返して、俺は地下鉄に向かった。

それっきり、再び部屋を訪れるきっかけが無いまま、月日は流れた。

俺は活動の拠点を大阪から京都に移すことになり、長年世話になった店に挨拶に出向いた。

店長も店の女の子達も残念がる中、チィ子ちゃんだけは近づいてもくれない。

「んじゃ、また遊びに来ますから」

「あぁ、頑張りや乱蔵くん」

「あんたならきっと輝く星になれるでぇ」

「流れ星だったりして」

「なんでやねん!」

俺の周りはいつもこうだ、ありがたい事に笑顔が満ちる。

チィ子ちゃんだけが泣き顔だ。


笑い声に見送られ、店を出た俺をチィ子ちゃんが追いかけてきた。

店の衣装のまま、走ってくる。
手に何か持っている。


「乱蔵っ!待てっ!」

「なんやなんや、どうしたんや」

俺の前で、はぁはぁと息を切らせながら、チィ子ちゃんは手の中の物を見せた。

それは、あの絵だった。
「これ、持ってって。えぇとね、ピサロって人が描いたんだって」

「わざわざ調べてくれたんか」

「時々でいいからさ、思い出してくれる?」