あの頃はまだ、年春は父母と仲が良かった。
家の中にも笑いが絶えなかった。
祖父もまだ生きていた。

年春は、その当時の楽しい記憶を我知らず封印していたらしい。
石になる事で辛い現実を乗り切ろうとしたのだ。
ビリケンさんに言われて、その封印が解かれた。
彼は鮮明に思い出した。
(そういえば、よぅ通天閣に昇ったんや。
ビリケンさんを綺麗にしてから、ミナミの街を見るのが好きやった)

いつからか、年春は父母を軽蔑し、憎んだ。
進路の事とか、日常の些細な不満が積もったのだ。
それでも、彼はグレる気は無かった。
その代わり、石になったのだ。

「…懐かしいなぁ。ほんならあれか、そのご褒美か」

「そや。今でこそ俺は羽振りエエけどな、あん頃はキツかった。
だぁれも拝んでくれへんねや。
神さんてな、拝んでもろてナンボやからな。
おまえとこのオジンにはホンマに助けられたわ」
ビリケンさんはまた、ニヤニヤと笑い始めた。

「そやからな、ご褒美と言うよりはお礼や。
どや、金はナンボほど欲しい」

年春はしばらく考え込んでいた。

「どないした?年春」

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