運命の赤い糸、
そんなものが本当に有るなんて。
逸美は手の中にあるものを凝視した。

何の変哲も無い赤い糸である。
長さ約30cm。
これが『運命の赤い糸』だと、あの男は言った。
喪黒とかいう奇妙な男だ。
一人きりでカウンター席に座る逸美に、喪黒は
ニヤニヤと笑いながら近寄ってきた。
バーテンダー相手に愚痴をこぼしているのを
傍から見ていたらしい。
その時、逸美はこう言っていた。
「運命の赤い糸が見えたらなぁ…」

「見えますよ」

え?とも言えぬままに振り返る。

「見えるんです。赤い糸」
質の悪いナンパか、それとも宗教の勧誘か。
いずれにしても今の自分には必要無い。

「あ、ああそう。それはどうも」
曖昧に答え、受け流そうとする逸美の目の前に
それが置かれた。

「ほら、赤い糸」

「あのねぇ、おじさん。悪いけど、相手してる暇無いのよ」