敦賀駅から北東の方角
にしばらく歩くと、
木之芽峠に続く山道が
ある。

幼い頃の私に会いに
行こう。

その頃はまだ、車も
あまり通らず、それ
どころか人に出会う
事すらあまり無い
ような山道であった。


その山道を親子連れが
登っていく。
小学3年の私と、
中学1年の姉と、
そして母親。

最初で最後のハイキ
ングだ。


「お母ちゃん、
てっぺんまで登ったら
きれいやろなぁ。」

「そうやで。そこまで
お弁当は我慢やよ。」


私は母のお弁当を
楽しみに、頂上を
目指した。

姉と流行歌を唄ったり
木の実を採ったり、
気がつけば目の前に
頂上があった。


そこで食べた弁当は
おにぎりに少しの
おかずだけのもの
だったが、歩き疲れた
体には最高のご馳走
だった。


峠には湧き水があった。

それは『木之芽峠の
観音水』と呼ばれる
湧き水だった。

霊顕あらたかな水で
あり、飲めば長生き
すると言われる水で
あった。

私と姉は、その湧き水
を母に飲んでもらい
たかった。

けれど母は、私達の
頭を撫でながら、
「お母ちゃんは丈夫で
長持ちやから。」と
笑い、湧き水を飲んで
くれなかった。

その時の私よ、
無理にでも飲ませて
おけば良かったのに。

せめて一口だけでも。