俵太が、玩具の刀で通行人に切りかかる。
そのリアクションを見ようという企画らしい。

「てぇぇぃっ!」

が、どれだけ俵太が切りかかっても、通行人は何ら反応しない。

見ている年春はイラつきを抑えられなくなってきた。

(なんやねん!あぁとかギャアとか言えよ!)

またもや必死で拳を噛む。

何とか乗り切った途端、三度目の合図が鳴った。

年春が今度降り立ったのは、いずことも知れぬ闇の中だった。

暗いが、妙に温かく、安心できる。
突然、地震が起きた。
悲鳴をあげかけて懸命に耐える。

地面が動いて体を運ぶ。
頭から狭いところに突っ込んでいかされるようだ。

狭い。

苦しい。

いきなり明るくなった。

目の前に人が居る。
その人に優しく抱かれ、年春はまじまじと覗き込まれている。

「どうした!産声をあげろ!」

母が仰向けに寝ているのが見えた。
心配そうに引きつった顔で年春を見つめている。

「どうした!泣くんだ」

年春は今、母から産まれ出たのだった。

(なんやこれ…オカン、あんな心配そうな顔で。エラい汗かいて…
あっちにいてるのがオトンか…真っ青やんけ…
…くそ、これは泣かなしゃあないやん)

しまいへ