「つくね亭…居酒屋かな」

確かにその店は、一見普通の居酒屋のようである。
が、昼間は食事も出来るようだ。
黄色い熊が持つ看板に、彼好みの料理がずらっと書かれている。

『本日のおすすめ 鰆の照焼き・イサキのおろし焼き・
キャベツと茹で豚の梅酢合え・
新タマネギの海鮮サラダ・八ちゃんの豆腐を冷奴で』

それだけでは無い。
彼の気を惹く、もう一つの物がある。
それは、店頭に置かれた鉢植えであった。
丸まった葉に見覚えが有る。
亡くなった彼の妻、香子が育てていた植物と同じ物に思えた。

香子は生前、庭いじりを何よりの楽しみにしていた。
彼女が植えた植物は、育てる者が亡くなった今でも、
勝手に育っている。
藤田は、その生命力を見るのが嫌さに、窓を閉め切っていたのであった。
庭が見える部屋に入ろうともしない。
今ではもう、庭がどうなっているか興味すら湧かない。
庭ばかり見て、俺のことはどうでも良かったような女だったとさえ
思い始めていた。

「ここにするか」
ぽそりと呟き、暖簾をくぐった。